規矩術とBIMを用いた鉄骨造による社寺建築の設計および施工法(薬師寺食堂復興事業)

《規矩術とBIMを用いた鉄骨造による社寺建築の設計および施工法(薬師寺食堂復興事業)》は、伝統的な建築技術である「規矩術」と現代の情報技術である「BIM（Building Information Modeling）」を融合させた新しい建築手法を紹介する論文である。この研究は、日本の文化財保護と現代建築技術の融合を目指し、特に薬師寺の食堂復興事業に焦点を当てて行われた。このプロジェクトでは、古来の木造建築技術を活かしながら、鉄骨造の耐久性と効率性を組み合わせることで、新たな社寺建築の可能性を模索した。

薬師寺は奈良県にある歴史的建造物であり、その中でも食堂は仏教寺院の重要な施設として位置づけられている。しかし、時間の経過とともに老朽化が進み、復興が必要となった。このため、従来の修理方法だけでなく、より持続可能で効果的な建築手法を探る必要があった。本論文では、そのような背景の中で、規矩術とBIMを組み合わせた設計および施工法が提案されている。

規矩術とは、日本の伝統的な建築技術であり、建物の構造や寸法を正確に計測し、バランスを保つための方法である。これは、古代から受け継がれてきた知識であり、木造建築において非常に重要視されてきた。一方で、BIMは、3Dモデルを基盤とした建築情報を統合的に管理する技術であり、設計・施工・維持管理の各段階で効率的な運用が可能となる。これらの技術を組み合わせることにより、伝統的な美しさと現代的な機能性を両立させることが可能になった。

本論文では、薬師寺食堂の復興プロジェクトを通じて、規矩術とBIMの連携がどのように実現されたのかが詳細に説明されている。まず、設計段階では、BIMを用いて3Dモデルを作成し、建物の形状や構造をシミュレーションした。これにより、設計の精度を高め、施工時の問題を事前に予測することが可能となった。また、規矩術に基づく設計思想を取り入れることで、伝統的な建築美学を損なうことなく、現代的な要件も満たす設計が可能となった。

次に、施工段階では、BIMを用いたデータベースを活用して、部材の製作・配送・設置を最適化した。これにより、材料の無駄を減らし、工期を短縮することができた。また、規矩術に基づく寸法調整を行うことで、鉄骨造と木造の接合部分の精度を高め、安定性を確保した。このような取り組みにより、伝統的な技術と現代の技術が相互に補完し合う形で、建設が進められた。

さらに、このプロジェクトでは、地域の職人や専門家との協力も重視された。伝統的な技術を継承するためには、現場の経験を持つ人々の協力が不可欠である。本論文では、規矩術の知識を持つ職人とBIMを扱う技術者との連携が成功の鍵であると述べている。このように、技術的な面だけでなく、人的な協力も重要な要素として取り上げられている。

また、この研究は、今後の社寺建築の復元や新築における参考となる価値があると強調されている。伝統的な建築技術を現代の技術と組み合わせることで、文化的な価値と機能性を両立させることができる。特に、災害などによって損傷した文化財の復旧において、この手法は有効な手段となると考えられる。

結論として、本論文は、規矩術とBIMを融合させた鉄骨造による社寺建築の設計および施工法を示し、伝統と現代の技術の融合が可能であることを示している。薬師寺食堂復興事業を通じて、このような手法が実際の現場で応用され、成功を収めたことから、今後同様のプロジェクトにも応用可能な枠組みが確立されたと評価されている。